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日本企業の格付けが高いというのはミスリード

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【参考記事】2017/12/24 日経新聞朝刊

気付けば格付け先進国 日本企業75%がA格、米の2倍

日本企業の信用力を示す格付けが右肩上がりに上昇している。高格付けの目安となる「A格」以上の比率は足元で75%に達した。約4割の米国の2倍だ。バブル経済の崩壊以降、借金に苦しんだ日本企業は強い財務を経営課題に据えた。気が付けば上場企業の過半が実質無借金で世界屈指の高格付け国になった。その裏側で成長投資が不足し企業価値を示す株価では海外に及ばない。四半世紀に及ぶ財務戦略の転換を迫られている。

格付投資情報センター(R&I)の格付けを取得した上場企業約450社を集計した。シングルA格とダブルA格は計75%と過去最高の比率。10年間で10ポイント上昇した。米S&Pグローバルの格付けでも8割を占める。

8月にA格になったマンション大手の大京には借金のトラウマがある。バブル期のリゾート開発で借金は1兆円を超え、2005年にオリックスの傘下に入ると借金返済が優先課題となる。3月時点では有利子負債の3倍の約900億円の資金を持つようになった。

だが純利益は今期15%減る見通し。安全運転に徹したためマンションの土地仕入れで後れを取った。山口陽社長は「借金で攻めの経営を進める」というが、不動産市況には過熱感も出ている。

借金恐怖症は多くの日本の経営者に共通する。バブル崩壊やリーマン危機を経験し、銀行や市場からお金を調達できない恐怖が刻みつけられた。

1998年4月にA格以上は58%だったが、99年に50%に下がり財務強化は日本企業の共通課題になる。企業は投資より借金返済に拍車をかけた。米主要企業はシングルA格以上の比率が4割前後。政府の財政再建が足踏みする一方、企業の格付けは先進国のトップランナーに躍り出た。

1400億円を投じて東京スカイツリーを建設した東武鉄道。12年の完成当時に約8500億円あった有利子負債は8000億円を割り、昨年7月にA格を手に入れた。

昇格組の企業には共通点がある。収入を示す営業キャッシュフローに比べ設備投資など支出を示す投資キャッシュフローが少ない。成長期の企業は支出が収入を上回り、成熟するとお金が残りやすい。上場企業の手元資金は約100兆円と空前の規模。返すべき借金はなくなりつつある。

日立製作所は円滑な資金調達やインフラ案件の受注にA格の信用力が欠かせないと言うが「投資家目線ではむやみに上げることは最適ではない」とも話す。実質無借金の電機メーカーの元幹部も「次の目標をどうすればいいのか」と口にする。

一方、ソフトバンクグループは借金恐怖症とは逆をいく。15兆円の借金を抱え毎年の利払いは5000億円近い。米格付け会社の評価は「投機的」を意味するダブルB格だ。だが10年前に3兆円だった株の時価総額は約10兆円まで膨らんだ。

京都大学の川北英隆客員教授は「財務戦略は企業ごとに異なるはず」と話す。企業によって資金需要は異なり事業リスクによっても違う。A格への偏在が示すのは「長期戦略の欠如」(川北氏)だ。横並びから抜け出した財務戦略こそ成長の基盤となる。

 ▼格付け 国や企業の信用力を簡単な記号で評価したもの。専門の格付け会社が財務や事業の状況を分析し債務の返済能力を判断する。記号の意味は格付け会社によって異なるがR&Iの場合、信用力が最も高い「トリプルA」から安全度に応じ「B格」「C格」と下がり債務不履行を示す「D」まで21段階ある。一般に「トリプルB格」以上が債務の支払い能力の高い投資適格とされる。格付けが高くなると有利な条件で債券を発行できる。

どの格付会社の格付けかを整理すべき

記事に掲載されている格付の内容です。

  • 日本企業は約75%がA格(R&I)、S&Pでも80%がA格
  • 米国企業は約40%がA格
  • ソフトバンクはBB格

日本企業の75%がA格と言っているのは日本の格付け会社である「格付投資情報センター(R&I)」の格付けです。

世界的に代表的な格付会社である「ムーディーズ」「S&P」と比較すると格付けが高くなる傾向にあります。

上記ではS&Pでも80%がA格となっていますが、これはS&Pが格付けをしている日本企業の数が少ないことが要因です。

日本企業でS&Pの格付けを取得しているのは米ドル建て債券等を発行する可能性のあるグローバル企業か金融機関が中心です。

よって日本企業全体を反映しているわけではなく、相対的に信用力が高い企業群のユニバースとなっています。

感覚的には仮に日本の全上場企業がS&Pの格付けを取得すると半数以上はBB以下ではないでしょうか。

上記にも記載がありますがソフトバンクが分かりやすい例です。

記事ではソフトバンクの格付けはBB格とありますが、これはS&Pの格付けです。

ソフトバンクのR&Iでの発行体格付けはA-となっています。

一概には言えませんが、ソフトバンクの例を他の企業に当てはめるとR&IでA-の企業はS&PではBB格ということになります。

つまり、日本企業の格付け(信用力)が米国などと比較して高いわけではありません。

ソフトバンクの債券は円建てが国内発行でA格、ドル建て・ユーロ建てが海外発行でBB格で発行されることもあり、投資家が享受できるスプレッド(上乗せ金利)に大きな差があります。

2015年に発行されたソフトバンク7年債のスプレッド(7年国債対比)は下記の通りです。

  • 円建て:2.03%
  • 米ドル建て:3.32%
  • ユーロ建て:3.66%

ソフトバンクの円債・ドル債・ユーロ債のスプレッドの違いについてはこちらも参照してください。

日本の債券投資家は同じリスクにもかかわらず相対的に低いリターンしか受け取れていないことになります。

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